「経皮毒 - 皮膚から、あなたの体は冒されている!」(竹内久米司、稲津教久共著)を斬る

経皮毒―皮膚から、あなたの体は冒されている!

経皮毒―皮膚から、あなたの体は冒されている!

DHMO」の同類登場。でも天然。

DHMOという科学ジョークがあるのをご存知だろうか? こんな感じの話だ。

近年になって有害ではないか?と言われている化学物質にDHMOというものがあります。DHMOとはジハイドロジェン・モノオキサイド(dihydrogen monoxide)という化学物質名の略称で、常温でほぼ無色の液体となる水酸化合物の一種です。


中毒性、常習性があり、不足すると渇きを覚えます。また、呼吸器にDHMOが浸入すると、呼吸不全を起こすことが知られています。
そしてこのDHMOは、毎年少なからぬ死者を出している危険な物質なのです。


DHMOは既に人の住む環境に広まってしまっています。癌細胞にもDHMOが含まれていることや、体内に取り込まれたDHMOはかなりの量蓄積されてしまうことが知られています。
さらにDHMOを体内に蓄積した母親から生まれた新生児も、体内にDHMOを蓄積した状態で生まれてくる、という報告もあります。


また、DHMO酸性雨の主成分としても知られ、全世界のほぼ100%と言ってよい河川からもDHMOが検出されています。
近年では、凶悪犯罪者の90%以上が犯罪行為を行う以前の24時間以内に何らかの形でDHMOを体内に取り込んでいるという情報もあります。


このような物質ですが、DHMOの排出を規制しようという政府は今のところ世界中どこを探してもありません。われわれはこんな化学物質を放置しておいて良いのでしょうか?

…実はこのDHMOとは「水」のことである。dihydrogen monoxideとは二つの水素原子と一つの酸素原子という水分子の組成を表す化学物質名の表記ルールに従って付けられた名称なのだ。

このジョークの面白いところは、何一つ嘘をつかず、生存に必要な物質である水ですらも危険な化学物質のように思い込ませることができるという点だ。

ほぼ純粋な水は知っての通り常温ではほぼ無色の液体で、水酸化合物の中ではもっともシンプルかつ代表的な存在だ。
そして人間は水が無いと生きていけず(常習性、中毒性)、不足すると渇きを覚える。もちろん水を飲んでいるときに気管に入れば咽る(呼吸不全)し、毎年夏になると水難事故で少なからぬ死者が出ている。そんなときの水は確かに危険な物質となる。
癌細胞はもちろんのこと、健康な細胞であっても生きている細胞ならば水分を含んでいるのは当然のことだし、人体の約70%は水分でできている。当然全ての「母親」の体は70%が水で、新生児ももちろん70%が水分でできた人間として生まれてくるわけだ。
酸性雨の主成分はもちろん水だし、全世界の河川に流れているのはもちろん水だから検出されないほうがおかしい。凶悪犯罪者だって人間だから、一日のうちに飲み食いぐらいするだろう。もちろん生存に必要不可欠な物質である水の排出規制を行う政府などあろうはずもない…


とまぁ、たったそれだけの「当たり前のこと」を、極端な一側面だけを切り出したり、仰々しい言葉を使って並べ立てた途端、印象だけで判断すると「危険な化学物質」のように思えてくる。それがこのDHMOというジョークの面白さの真髄だ。


今回取り上げるのは、竹内久米司、稲津教久という二人の著者による
経皮毒〜皮膚から、あなたの体は冒されている!」
という衝撃的なタイトルの本。

なぜか背表紙では経皮毒〜日用品が毒になる!!」というタイトルになっていて、表紙に書かれているタイトルと異なるのが気になるところだが、この際そんなことはどうでもいい。この本は、日常的に使っているシャンプーや洗剤には有害な化学物質が含まれていて、毎日それを使っているうちにそれが体内に蓄積されていく、と主張する著者によって書かれた衝撃の本なのだ!


この本を読んでみて私は、冒頭に挙げたDHMOのジョークを思い出した。

なぜなら、この本は断片的に読めば個々の情報それ自体は正しい(あるいは間違っているとは言えない)ことが多い。しかし、それらの情報を適用できるケースが極めて極端で、その極端な情報を元に著者はとんでもない結論を導き出してしまうのである(笑) そのプロセスがさながらDHMOのジョークを彷彿とさせた、というわけだ。

しかしながら、DHMOの場合はそのジョークを言っている側はジョークとして言っているわけだから、相手をだまして「実はこれって…」という種明かしがあって、騙されっぱなしではないから実に無害なものだ。ところがこの本の場合、著者の先生方にジョークを言っているつもりは全く無くて、もちろん「種明かし」などない。挙句、近年ではこの本をはじめとする「経皮毒」というトンデモ説を根拠として、客に「安全なシャンプー」などを売りつけるマルチ商法まである始末。DHMOのように無害なジョークとはもはや言っていられない。


じゃあ、どんなところがおかしいんだろう? それをこれから見ていこう。


経皮毒」って何?

この本のタイトルにもなっている経皮毒という言葉は、そもそも科学の世界の言葉じゃなくて、この本の二人の筆者、竹内久米司と稲津教久による「造語」だ。その証拠に、この本の「はじめに」と題した序章には

環境ホルモンの人に対する影響は、サリドマイド水俣病(有機水銀)、カネミ油症(PCB、ダイオキシン)などの薬害あるいは公害でも明らかです。(中略)上記の事例は、主に口から入る有害化学物質によって引きおこされたものですが、現在皮膚から入る化学物質がさまざまな先天的障害に影響を与えていると考えられています。
筆者らはこの経皮吸収によっておきている現象を「経皮毒」と呼ぶことにしました。
(P6〜7「はじめに」より)

と書かれている。つまり、筆者らの造語であることはここで明示されている。

経皮毒」というのが何を指すかといえば、言葉を定義した筆者たちが引用した箇所で述べているような考え方を指すのは間違いない。なぜなら、この言葉は彼らの作った言葉だからだ。


考え方はわかった。しかしこれは本当だろうか? 本当だったらえらいことだが、少なくとも著者の先生方はそのように考えているのは間違いない。しかし、引用箇所中で「考えられています」と書かれているほど、本当に医学の世界ではそのように考えられているのだろうか?


経皮毒」で騒いでいるのは、著者たちの周囲だけ

amazon.co.jp で「経皮毒」をキーワードとして検索すると、10冊に満たない書籍がリストアップされる。2007年3月2日現在、そのうち二冊を除いた全ての本について、以下二人のうち最低一人が著者や監修者として関与している、というのがわかる。

  • 竹内久米司
  • 稲津教久

はい、見事にこの本の著者です(笑)。
この二人が表向き名前を出していない、池上明によって書かれた本もあったけど、この人は「胎内記憶」についての相当怪しい本を書いている人だったりする。また、その後上記二人のうち稲津教久との共著でも本を出している人だから、必ずしも無関係の第三者とはいえない。つまりは「経皮毒」で騒いでいるのはこの二人とその周囲、そして本の内容を真に受けた怪しい話のビリーバーと、マルチ商法の企業だけ(笑)


で、今回主題として取り上げる本の著者でもあるこの二名、巻末のプロフィールを見ると、両方とも「薬学博士」であって皮膚科医じゃない。確かに化学物質については詳しそうな肩書きだが、人間の皮膚の働きについてはどの程度詳しいものやら、それどころか本業に近いはずの化学物質と人体のかかわりについても、その専門性について相当疑わしかったりするのだ。


経皮毒」が医学的事実であるならば、この二人と無関係の第三者によって追試された上で書かれた本が出ていても全くおかしくはないが、そんな本は Amazon.co.jp で「経皮毒」をキーワードとして検索しても出てこない。


何かを「科学的だ」というための条件のひとつに、他者による追試が行われ、同様の結果が得られなければならないというものがある。カール・セーガン

利害の対立する他者からも同様の結果が出るならば、そのデータは信用してもよい

という言葉を残している。


しかし、少なくとも「経皮毒」については、利害の一致しない他者によって検証され、本書の内容と一致するデータが出た、という事実は見当たらない。どれだけ贔屓目にみても「経皮毒」は仮説の域を出るものではないと言えそうだ。

「経皮吸収」で虫さされのかゆみと一生おさらば!?

経皮毒」の概念が、「皮膚を通じて有害化学物質が体内に取り込まれる」というものであることは、先に説明したとおりだ。第二章「皮膚から吸収される経皮毒物質」では、そのプロセスについて解説してあったりする。

わかりやすい例をあげますと、虫さされなどの薬を塗り込めば、薬効成分が皮膚に吸収され効き目を発揮します。かゆみがとれて、腫れが引くのも早くなりますね。これは皮膚から薬効成分である化学物質が吸収された状態だといえます。
台所用洗剤、ボディーシャンプー、シャンプー、コンディショナー、化粧水、ローション、歯磨き粉……。日常使っているこれらのものは、塗り薬と同じように直接肌に触れるものです。ものによっては肌にていねいに塗り込むものもあるでしょう。実はこれら日用品には、有害だとされる化学物質が多く混入されているのです。
洗剤は触れている時間も短く、すぐ洗い流してしまうから問題はないのでは? と考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、毎日繰り返し使うものです。たとえ接触時間が短くても、少しずつ皮膚から吸収されていきます。さらにやっかいなことには、洗剤などの日用品の多くには、皮膚からの吸収を手助けするような物質も含まれているのです。(P36)

…さて、この説明で納得してしまったあなたは気をつけてほしいところ。


まず、著者の先生方は、例として塗り薬を挙げていることに注目してほしい。塗り薬はシャンプーなどと違って、そもそも薬効成分を経皮吸収させるようにできている。単位面積あたりの塗付量はシャンプーや洗剤などよりはるかに多く、それらより長時間皮膚に接触していることも思い出してほしい。もちろんその用途のため、意図的に皮膚からの吸収を手助けするような物質も含まれているだろう。


引用箇所の説明だと、シャンプーや洗剤よりも単位面積あたりの接触量が多く、洗い流さないため接触時間も長く、最初から経皮吸収されるように作られている塗り薬は、経皮吸収で体内に吸収され、そして蓄積されることになってしまう(笑) 虫さされの薬を塗って一時的にかゆみが引いても、翌日、あるいは何日か後には同じ箇所がうずきだしてまた薬を塗る羽目になるのをどう説明するのだろう? 薬が患部に蓄積されて、ずっとその箇所のかゆみを抑えてくれるならば願ったりかなったりなんですが、なんでそうならないんでしょう先生方?(笑)


塗り薬より強烈なシャンプーって!?

著者の先生方は、経皮吸収と対比させるように経口吸収という体内吸収経路を挙げている。その中にこんな説明がある。

肝臓で代謝作用を受けることは経口経路の最大の特徴で、90%以上の毒性がカットされるともいわれています。消化器官で吸収された量よりもはるかに少ない量が血液循環に入っていくのです。このように肝臓を通って代謝・分解され、化学物質が血液にそのまま入っていくことを防ぐ効果を「初回通過効果」と呼びます。たとえば薬の有効成分の含有量は、あらかじめこの初回通過効果を計算して設定されています。(P40)

さすがは腐っても薬学博士、このあたりの説明は特に問題ない。
わかりやすく言うと、飲み薬の薬効成分は、肝臓が持つ解毒作用によってキャンセルされてしまう分量を、本来投入したい分量に上乗せしてある、ということ。

経口薬(飲み薬)に限らず、医薬品というのは人体の持つさまざまな防御機能によってキャンセルされてしまう分を上回る量を吸収させることによって、その成分の恩恵にあずかるものなわけだ。


ところが著者の薬学博士二人は経皮吸収の説明になると、途端にこの本の主題にとって都合の悪い事実に目を瞑ってしまうのだ(笑) まず、皮膚の機能説明で著者はこのように述べている。

さらに、もうひとつ取り上げるべき働きとして、角質層には水分や水分に含まれる異物をためておいて、後から入ろうとする異物を遮断するという作用です。水分と一緒に異物が入ってきた場合、角質細胞は水分を吸収してふくれていきます。もっともふくれた場合は六倍も厚みを増すといわれています。
ターン・オーバーで顆粒層が角質層に押し上げられるとき、異物も皮膚のもっとも表面まで押し上げられ、はがれ落ちていくのです。ターン・オーバーを伴ったこの働きが、角質層のバリアー機能のなかでもっとも重要な部分です。(P47〜48)

この部分のみに関して言うならば、概ね間違ってはいない。ちなみに「ターン・オーバー」とは、皮膚表面の角質層が剥がれ落ちて垢となり、その下の顆粒層だった部分が新たな角質層として取って代わるという、皮膚の代謝を表す言葉だ。シャンプーや洗剤の成分については上記説明にある「水分や水分に含まれる異物」に該当し、そうした異物は表皮の角質層がスポンジのように膨らんで中に入っていかないようにするということかな?

しかし、皮膚バリアーといえども外界からの異物を完璧に遮断できるわけではありません。条件によって違いますが接触した物質の約0.5%はどうしても皮膚の内部にまで侵入してしまいます。角質層をくぐりぬけた物質は細胞そのもののなかに染み渡り、隣り合った細胞を伝わって内部に侵入するパターンと、細胞の隙間から染み込んで体内に入ってくるパターンがあります。

まぁ、この説明それ自体は概ね正しいとしてもいい。
ただし、ミスリードしてはいけない部分として著者の先生方が自ら書いているように条件によって違うという点。さっき引用した肝臓についての解説を同じ文脈で書き直してみると、その意味するところがわかりやすくなる。

しかし、肝臓といえども外界からの異物を完璧に遮断できるわけではありません。条件によって違いますが、摂取した物質の約10%以下はどうしても体内にまで侵入してしまいます。肝臓でカットしきれなかった物質は血液循環に入り込み…
(以下略、肝臓の説明を皮膚についての説明と同様の文脈で書き直し。)

つまり、こういうことだ。


人体には、さまざまな経路で体内に浸入する異物をシャットアウトする機能がもともと備わっている。肝臓や皮膚は、受け持ちの経路が違うだけで、いずれもそのシャットアウト機能という点のみにおいては同じだ。そして勿論その機能には限界もあり、限界を超えた分は体内に侵入してしまう点も同様。

医薬品というものは、先ほど引用した経口吸収と肝臓の初回通過効果の説明で著者の先生方が書かれたように、こうした人体の防御機能を踏まえた上でその分量が決められる。
それは経口薬であれ、塗り薬であれ同じことだ。その経路から経口薬は肝機能の、塗り薬は角質層を含む表皮の防御機能で目減りする分を考慮し上乗せすることで、身体の防御機能を乗り越え患部に薬効物質を届けるように作られる。


ただ、著者の先生方は「条件にもよりますが」と逃げを打っていたことを思い出してほしい。異物の絶対量が極めて少ない場合、人体はたちどころにそれを始末してしまうのだ。


もちろんそんなことは、薬学博士である著者の先生方は百も承知のはずだが、この先生方のいうことは、その次あたりから段々と奇妙な色合いを帯びてくるのだ。

私たちが日常触れている合成化学物質、とくに洗剤や化粧品などはほぼ毎日使っているものです。これらに含まれる化学物質が経皮吸収されると、そのなかの一部は皮下組織に残留します。そして翌日にはまた新たな化学物質が吸収されるわけです。化学物質は皮下組織で残留しているところに沈着をくり返し、日々その残留度合いを強めていきます。

ちょっとまて(笑)


著者の先生方は数ページ前に御自分で「条件によって違いますが」と書いたのを覚えていないんでしょうか!? シャンプーや洗剤、化粧品には、角質層の防御を乗り越えて皮膚に浸入する塗り薬並みの分量の化学物質が含まれているとでもおっしゃいますか先生方!?

化学物質の説明は誇張だらけ

とりあえずここまでのところは、DHMOのジョークを天然ボケでやっていたようなものなのでまだいいとしよう。問題はここから先。著者の先生方はいくつかの化学物質を挙げて、経皮毒に至るまでのプロセスの解説に入る。しかし、その解説には嘘と誇張が紛れ込んでいる。

まず、先生方は経皮吸収の条件として、物質の分子量脂溶性を取り上げ、分子量の大きな物質は皮膚バリアーを通り抜けられない、という説明をする。

たとえば牛乳の中に含まれるタンパク質分子はとても大きいことで知られていますが、大きすぎるため皮膚バリアーをなかなか通り抜けできません。ところが、日用品によく使われている石油から作られた有害化学物質は、分子のサイズが非常に小さいものが多いのです。そのため、一度取り入れられた化学物質の分子は細胞膜や細胞の隙間を容易にくぐり抜け浸透しやすいと考えられます。(P52-53)

ここで著者の先生方が乱暴にも「タンパク質の分子」と一括りにしてしまっているが、タンパク質と呼ばれる構造は多岐にわたり、ある共通する分子構造を持つ物質を総称してタンパク質と呼んでいる。タンパク質の一次構造に含まれる酸アミド結合(-CO-NH-)の原子量の和(分子量)は43.025ぐらいある。しかし、アミド結合は、タンパク質の一部でしかなく、一般にタンパク質と呼べる構造は、この酸アミド結合をいくつも内包する構造をとり、分子量は非常に大きなものとなる。その点では確かに「タンパク質分子はとても大きいことで知られて」いる。

…しかし先生方、比較対象が大きすぎやしませんか? そんだけ大きけりゃ、まぁ皮膚から入り込んだりしませんわな。イカはざるの目を通りませんと言っているのに近い。まぁいいけど。


そして先生方はプロピレングリコールという物質を引き合いに出し、これが経皮毒を体内に侵入させる役割を果たしていると主張する。

そうした物質を運ぶトランスポーターとして、もっとも多く用いられているのがプロピレングリコール(PGと表記されることも)という化学物質です。比較的害が少なく、効果的な浸透作用があるため、多くの製品に使用されています。(P54)

ここで先生方が挙げているプロピレングリコールは、分子式で書くとC3H8O2となり、分子量は79.094。確かにここに書かれている通り、多くの製品に使用されている。

しかし、害が少ないからといって無害だというわけではなく、ほかの有害物質も一緒に浸透させてしまうため、安全な物質だとは言い切れません。今使っている、乳液やクリームの成分表を見てください。どの商品にも間違いなく、この成分名が表示されていることでしょう。(同P54)

えーと、今日買ってきた「弱酸性メリット」には表示されてないんですが(笑)


まぁ例外はあるとしても、この文脈は嘘をついているわけではない。嘘ではないがミスリードを誘う文脈でもある。「安全な物質だとは言い切れません」という不穏な文脈が紛れ込んでいるが、これは冒頭に挙げたDHMOと同じようなものだ。水だって万事において安全な物質ではない。確かにプロピレングリコールは危険な振る舞いを見せることはある。国際化学物質安全性カードには、この物質の危険や扱う上での注意が書かれているが、その中の皮膚に関してはこのように書かれている。

保護手袋。汚染された衣服を脱がす。多量の水かシャワーで皮膚を洗い流す。

…さて、これだけみると「そんな危険な物質が…」とか思うかもしれないが、よく考えてもらいたい。これは試薬としての、濃度の高いプロピレングリコールが皮膚に付着した場合の対処法だ。つまりは皮膚に付着したプロピレングリコールの濃度や分量に対し、相対的に多量の水やシャワーで皮膚を洗い流せば、適切な対処をしたことになる。シャンプーや化粧品に含まれる程度のプロピレングリコールの分量であれば、シャワーで洗い流したり化粧落としの洗顔をすることで、この条件を十分すぎるほど満たしていることになる。プロピレングリコールという物質自体については無害な物質とは言い切れないが、シャンプーや化粧品のような濃度と使用形態においては事実上無害と言い切れるというのが正しい。


そして先生方はその後にこう述べている。

化学物質の分子量の違いや脂溶性であるという条件以外にも、物質の量や濃度も違いも吸収される量に影響を与えます。研究結果によると、物質の量はある一定の量を超えると浸透効果がとまってしまいました。しかし、濃度は物質の特性にもよりますが、高ければ高いほど吸収量が多くなることがわかっています。(P54)

…なんだ先生方、ちゃんとわかってるじゃないですか(笑)
逆説的に言えば濃度は低ければ低いほど吸収量が少なくなるということだ。そしてシャンプーや化粧品に含まれるプロピレングリコールの量や濃度などたかが知れているわけで、もちろんその吸収量は濃度に比例して小さなものだ。そしてそれは、翌日には垢となって剥がれ落ちてしまう程度の量だったりする(笑)



先生方は、皮膚に傷や病気があればそこから異物が入りやすくなる、という説明をする。うん。それは納得できる。皮膚に穴が空いたり、防御機能に障害が出ているわけだからね。しかしその直後、合成界面活性剤「ラウリル硫酸ナトリウム」を槍玉にあげ、この物質が傷や病気と同じように皮膚の吸収率を高める状態を作り出す、と主張するのだ。

同じように吸収率を高める皮膚状態を化学物質が用意することもあります。家庭用洗剤などに使用される、多くの合成界面活性剤がこうした角質バリアーの働きを妨げ、化学物質が入り込みやすい状態を作り上げるのです。
合成界面活性剤で多くの製品に用いられるラウリル硫酸ナトリウムという物質があります。主に発泡作用を促すために含まれているのですが、皮膚に接触すると、角質細胞の細胞膜を破壊する作用があります。細胞膜を破壊された細胞は死滅するので、皮膚バリアーの機能はまったく働かなくなります。(P56)

…この先生方は、含まれている = 作用を顕著に及ぼす と考えているらしく、その中間の状態というものを想像できないらしい

ラウリル硫酸ナトリウムは、確かに皮脂を取り除くため、人によっては皮膚や目に炎症を起こすことがある。まぁ、大量に付着すれば誰でも炎症を起こす可能性がある。ただし、通常の洗剤やシャンプーで使用する上でそこまでの濃度はないわけだ。確かに角質細胞の細胞膜を破壊する作用はある。しかし、それで角質細胞が完全に丸ごとなくなってしまうわけではない。「皮膚バリアーの機能はまったく働かなくなります」などというのは誇張もいいところだ


この先生方がどれだけおかしなことを言っているかを説明するために、ちょっとしたたとえ話をしよう。


私たちは焦げ付いた鍋を洗うとき、クレンザーや金属たわしを使って鍋を磨く。クレンザーや金属たわしは焦げ付いた鍋の表面を徐々に削り落とすので、焦げ付きの下にある鍋の素材が露出するまで磨けば鍋が綺麗になる、という寸法だ。
クレンザーや金属たわしが鍋の表面を削り落とすということは、クレンザーや金属たわしで鍋の底に穴を空けることは理論上可能だ。しかし、そうするためには相当長時間根気よく、力いっぱい鍋の底を磨き続けなければならないだろう。


ところがこの先生方の主張は、鍋とクレンザーや金属たわしの話にたとえれば、「鍋の底にクレンザーを振りかけ、金属たわしでひと撫でするだけで穴が開く」と言っているに等しいのだ。

あと、ここで先生方は書いていないが、このラウリル硫酸ナトリウムという物質は、分子式で書くならば「C12H25NaO4S」となり、分子量は288.38。タンパク質ほどとはいかずとも、結構大きな分子量を持つ物質だ。つまり、ラウリル硫酸ナトリウムが角質層を完全に破壊することができない以上は、これ自体が皮膚に浸透することはないと考えていい。この物質は、角質層表面を削って汚れを落とす、クレンザーのようなものなのだ。というか、そもそも界面活性剤とはそういうもの。


そして著者の先生方はこのように書いている。

つまり成分表に表示されている、化学物質単体の有毒性、作用性だけでは、経皮毒の影響は分析できないといえます。使用されている化学物質の相互作用で、その製品の被害を推し量る必要があるのです。(P56)

はい、全くその通りです(笑)。先生方には化学物質単独の有毒性、作用性だけでなく、日常生活での使用方法における分量や濃度、そしてそれに対する人体の抵抗力というものも加味した上で話をしていただきたいところですな。肝臓の説明ではちゃんと初回通過効果の説明があったのに(笑)


その後、先生方は年齢や身体部位による経皮吸収率の差異についての説明もしてくれる。乳児や子供の肌は大人に比べて浸透率が高いとか、手足に比べて顔やわきの下などは浸透しやすいとか。まぁその説明自体は概ね間違ってはいない。しかし、人間の皮膚がシャンプー程度の濃度しかないラウリル硫酸ナトリウムで角質層に穴が空くぐらい弱かったら、世間の人々のほぼ全てが皮膚病になっているとか思いませんか、先生方?


「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム」と10回言ってみよう

著者の先生方は合成界面活性剤に並々ならぬ憎しみを燃やしているらしく、合成界面活性剤として使われている化学物質を次々と攻撃する。先に挙げたプロピレングリコールラウリル硫酸ナトリウムに飽き足らず、合成界面活性剤を手当たり次第に列挙する。

現在、多くの家庭用洗剤に使用されている合成界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウム(ASと表記)、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LASと表記)、AESAOSα-SFAEAPEなどがあります。合成界面活性剤の草分けともいえる、アルキルベンゼンスルホン酸塩(ABSと表記)は、これまで多くの製品に用いられていましたが、生分解性がとても低いことが知られて、現在ではほとんど使われていません。(P66)

ここで出てきた非常に長い名前の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム。ある経皮毒ビリーバーさんのblogには「舌を噛みそうな名前」として「直酸アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム」なんて誤字のおまけつきで紹介されてたりするが、それはそのブロガーさんのミスであって先生方のミスじゃない(笑)


で、この直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムだが、確かに皮膚刺激性が認められている物質だ。ただし、20%以上の濃度の場合で(笑)。
しかし、日常生活でこの直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム接触する場合の濃度は、せいぜいその百分の一以下。20%以上の濃度でやっと発現する皮膚刺激性など問題にならないのだ。ここにも先生方の 含まれている=顕著に発現する という短絡的(もしくは二分的)な発想が見てとれる。


著者の先生方もこのあたりで化学物質名を列挙するのに疲れたのか、個々についての説明を省略し、界面活性剤として用いられる化学物質名の非常に大雑把な見分け方を紹介してくれる。

合成界面活性剤の名前はこのようにとても長く、呼び方、表記もさまざまですが、「アルキル」「ラウリル」というのは界面活性剤全般についている名前で、そこにベンゼン「フェノール」などの単語がつくと石油を原料とする合成界面活性剤だといえます。(P66)

…えーと先生方は、このひとつ前のページで、こんなふうに書いてます。

昔から使われてきた天然の界面活性剤は脂肪酸ナトリウム脂肪酸カリウムの二種類しかありません。(P65)

脂肪酸ナトリウム」脂肪酸カリウムにはアルキルラウリルもついてませんね。「界面活性剤全般についている名前」じゃなかったんですか?(笑)

とにかく合成界面活性剤の仕業だ!…って、ちょっと待て!

そして先生方は、合成界面活性剤たちを様々な皮膚障害の容疑者として糾弾する。

これまでラウリル硫酸ナトリウムの弊害を紹介しましたが、界面活性剤は皮膚の脂分を取り除き、細胞膜を破壊する作用があります。そのため皮膚バリアーが機能しなくなり、化学物質が直接皮膚内部へ浸透していくことになります。そのため皮膚の抵抗力が下がってしまい、肌荒れや細菌感染、アレルギー症の原因となります。もっとも多い皮膚障害は、進行性指掌角皮症(ししょうかくひしょう)と呼ばれる、手のひび割れです。一般では「主婦湿疹」といわれる症状です。皮脂膜がはがれ落ちて、角質層が乾燥し、皮膚表面に痛みを伴う亀裂が生じるのです。(P67)

ここで挙げられている「進行性指掌角皮症」は、引用箇所を読む限り俗に言うところの「手荒れ」なわけだが、よく読んでみてもらいたい。手荒れ自体は角質層表面にある細胞の細胞膜が界面活性剤によって破壊され(削り取られ)、皮脂を落とされることによっておこる乾燥肌であって、皮膚内部に化学物質が浸透することが原因じゃない。なんかもう、見事にDHMOと同類のジョークを読んでいる気になってくる(笑)


さらに、先生方は勢いに乗って、とてつもなくおかしなことを言い始める。

頭皮のかゆみ、フケ、抜け毛、かさぶたも同じように合成界面活性剤による皮膚障害だといわれています。(P67)

何処で、どんなケースのフケや抜け毛、かさぶたが合成界面活性剤による皮膚障害だと「いわれている」のかは書かれていないが、「いわれている」ケースがあるのは確かなのだろう。じゃあ、合成界面活性剤を使わなければフケが出たり髪の毛が抜けたりしないのか? そんなわけないだろ(笑) フケや抜け毛は、人体の自然な代謝機能の結果として普通に起こる生理現象だ。


フケというのは言い換えれば頭皮の垢で、大半が古くなった皮脂と、剥がれ落ちた角質層のなれの果てだ。
先ほどの先生方の主張にもあったとおり合成界面活性剤は皮脂を落とし、角質層表面の細胞膜を破壊して古くなった角質層を削り落とすわけで、それらはフケになる前に合成界面活性剤を使用したシャンプーできっちりと洗い流せるわけだ。むしろ界面活性剤で皮脂をきっちりと落としていなければ、それは大量のフケとなって出てくるだろう。あるいは不潔にしていることで頭皮の健康を損なって代謝機能が低下し、別の意味でフケが出なくなるかもしれない。


抜け毛も人体の自然な働きで、毛根の細胞はひとしきり髪の毛を生成した後、寿命が尽きると髪の毛を生成できなくなる。そのとき、そこから生えていた髪の毛は抜ける。細胞には寿命があり、これは致し方ないことで、正常な代謝の結果として髪の毛は抜けるものだ。しかし、頭皮に付着した皮脂を放置して不潔にしていたりすると、この毛根の細胞の寿命は縮んでしまう。しっかりと皮脂を落とし、毛根を清潔に保つことで抜け毛の頻度を小さくできるのだ。そして皮脂を落とすために、先生方が目の敵にしている合成界面活性剤を含むシャンプーなどが一役買っているわけだ。


つまり、事実は概ね先生方の認識と全く逆だったりする。どこかで「いわれている」ことが「大半の事実を指している」とは限らない。極端な例の場合、それは普段全く当てはまらないことがあるのだ。

シャンプーに発ガン性物質が!…ってどれのことだ?

先生方は、合成界面活性剤を使用したシャンプーや洗剤によって、皮膚ガンが誘発される危険を指摘する。

合成界面活性剤が皮下組織に侵入して、長期間にわたって残留した状態が続くと、皮膚がんが誘発されることも指摘されています。ラットを使った実験では、合成界面活性剤と発がん性物質を一緒に与えると、ラットの発ガン率が大幅に上がったという結果が出ました。(P68)

…えーと、先ほどまでの先生方の説明では、合成界面活性剤は皮脂を落とし角質層細胞表面を削り落とすことで皮膚バリアーを無力化し、化学物質の経皮吸収を助けるというものじゃありませんでしたっけ? いつのまにか合成界面活性剤自体が皮下組織に侵入するってことになっていますが。なんか、途中で設定が変わる長期連載の少年漫画みたいな展開になってきました(笑)


それに、確か分子量の大きなものは皮膚バリアを通過できないんじゃありませんでしたっけ? 「鍋とクレンザー」のたとえ話で出したとおり、合成界面活性剤は角質層を完全に除去するわけじゃあるまいし、ラウリル硫酸ナトリウムとか、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムは、タンパク質ほどじゃありませんが、かなり大きな分子量をもった物質ですよ?(笑) …って、先生方は「完全に破壊される」と信じてるからこういう話になるのかな?


シャンプーや洗剤に含まれる程度の濃度では、接触した部分の角質層を完全に破壊して大穴を空けることが出来ない以上、これらの物質は表面を削り取るだけで、皮下組織に侵入することなどできない。


「ラットを使った実験」というのも、その有意性(どれだけ意味を持つか)が疑わしい。この種の実験が意味を持つのは、そこで使用される物質の種類と、分量や濃度が、日常接触するそれらの物質の種類、分量と濃度、頻度に照らし合わせて妥当である場合だけだ。

この「ラットを使った実験」の条件として書かれているのは、

  • 合成界面活性剤と
  • 発ガン性物質を
  • 一緒に与えた

ということだけで、ここからそれが「妥当な実験だった」と言うことはできない。そもそも与えたというのはどうやって与えたんだろう? まさか「食べさせた」んじゃないだろうな(笑)。合成界面活性剤と発ガン性物質の混合物をラットの皮膚に塗付したとして、その分量や濃度は? そもそもシャンプーや洗剤に含まれる発ガン性物質って何を指してるんですか先生方?


…あ、花王の「弱酸性メリット」には「青色1号」が使われてたなぁ。これは食用にも使われる青い着色料で、確かにEU圏では発癌性物質認定されているんだけど、身近なところではカクテルの「ブルーハワイ」などに使われるブルー・キュラソーというお酒に使われてたりする。あとは、少し前に話題になった、ゲーム「ファイナルファンタジー」に登場するアイテムを模したポーションという清涼飲料水にも使われてたなぁ。あのぐらいの「青さ」を出すのに必要な「青色1号」がどのぐらい危険かといえば、食塩より安全だったりする(笑) また、「青色1号」は分子式にするとC37H34N2Na2O9S3。これは分子量にして、792.848という非常に大きな分子で、もちろん角質層を通り抜けられないということになる。


その後も先生方は攻撃の手を休めることなく、

…と、矢継ぎ早に合成界面活性剤の脅威を主張する。しかし、それらは仮に界面活性剤として使われている物質そのものがもたらす被害の説明にはなっているとしても、シャンプーや洗剤の使用方法における接触形態や濃度での影響というものの説明には全くなっていない。もう完全にDHMO的レトリックの文脈だ。


先生方の「合成界面活性剤」という言葉の使い方も、何やら怪しい。というのは、「コラム6・知っておきたい有害化学物質1〜合成界面活性剤その1」の中で、「高級脂肪酸エステルスルホン酸ナトリウム」の名前があるのだ。

●高級脂肪酸エステルスルホン酸ナトリウム α-SF
(アルファスルホ脂肪酸エステルナトリウム)
主にヤシ油を原料とした界面活性剤。刺激が少なく、生分解性が高いといわれています。
(P69より)

…えーと、先ほど先生方は「石油を原料とする界面活性剤」を「合成界面活性剤」と呼んでいたと思いますが、これってヤシ油が原料ですよ?(笑) 先生方の言う「合成界面活性剤」って、一体何を指してるんですか?

「合成」かどうかは関係ないんじゃない?

ここまで先生方の主張を読んでくると、ある疑問が頭をもたげてくる。先生方はヤシ油が原料の界面活性剤も合成界面活性剤として扱っているので、先生方の言葉でいう「合成界面活性剤」と「合成ではない界面活性剤」の違いがわからないのだが、ともかく界面活性剤となる物質が含まれている限り、それが「合成」だろうがそうでなかろうが、先生方の主張によれば角質層を破壊するんではないか? と。


経皮毒」説は、界面活性剤によって角質層が破壊され、そこから有害物質が浸透しやすくなる、という説だ。そして、忘れてはいけないのは角質層表面の古くなった細胞を破壊し、削り取るのが界面活性剤の役割であって、そこには天然も合成もない、ということだ。そうすると、界面活性剤が合成かどうかは関係ないということにならないか?


つまりは、先生方がちょこっとだけ挙げた、天然の界面活性剤である「脂肪酸ナトリウム」や「脂肪酸カリウム」でも同様で、洗剤やシャンプーなどの洗浄剤というのは必ず界面活性剤を含んでいる、というか、洗浄剤の本分を果たすのが界面活性剤である以上は、石鹸などでも同様だということになる。そうなると経皮毒」を防ぐために風呂に入るのをやめる必要があるということにならないか?(笑)


ここで、もっとも歴史ある洗浄剤「石鹸」の歴史を振り返ってみよう。この石鹸には天然の界面活性剤が使われており、先生方イチオシの「合成ではない界面活性剤」がどんなものなのか、知っておく参考になるだろう。


歴史上もっとも古い石鹸は紀元前6世紀頃、フェニキア人によって作られたといわれている。1世紀ローマの博物学者・大プリニウスが「博物誌」に、山羊の脂肪とブナの木灰から作る石鹸について記述している。もちろん当時のことだから天然の界面活性剤を含むことになるわけだが、よく乾燥肌の原因になったという


つまりは、先生方ご推薦の合成ではない界面活性剤でも、こうした乾燥肌を引き起こすのだ。しかも、現在使われている合成界面活性剤よりも非常に顕著な形で


先生方、ひょっとして

天然 = 良い
合成 = 悪い

という、印象先行の短絡的な評価基準で書いてませんか?


合成界面活性剤が角質層を破壊するなら天然の界面活性剤だって角質層を破壊する。そこから有害な化学物質が侵入するというなら、界面活性剤の出自は関係ない


欧州では8世紀頃、多くの病気の原因が細菌であることがわかり、衛生についての意識が高まるにつれ富裕層を中心として石鹸が使われるようになった。日本に石鹸が入ってきたのは16世紀頃の話だ。

つまりは経皮毒が問題なのであれば、欧州では8世紀頃、日本では16世紀頃から大変なことになっていないとおかしいわけだが、そうはなっていない。それが何故だか、先生方は考えたことがおありでしょうか?


そして話題は地球環境へ──

その後先生の話は、「市販されている洗剤やシャンプーなどを使った際の人体への影響」から、それらを排出した結果の地球環境への影響の話になだれ込む

日常何気なく使っている洗剤やシャンプーが自然環境に流れ出し、環境ホルモンとして汚染していく。そんな話が延々と続いている。


うーん、壮大だ(笑)


よもや、台所や浴室で使われる洗剤から惑星スケールの話になるとは。
確かに私も地球の環境は大切だと思う。それはいわゆる環境保護という胡散臭い言葉ではなく、環境維持という言葉のほうが適切な、現実的な理由からだけど。つまりは、自分たちが生存可能な環境を維持出来ないと、生きていけない、というだけの話。まぁそれでも、環境の大切さはよくわかる。


しかし先生方、少なくとも市販の洗剤やシャンプーを個人レベルで使用した場合には、先生方が書かれたような「経皮毒」のようなことは起こりませんよ、やっぱり。


経皮毒」はデタラメだらけ

ここまで読んできてわかったように、経皮毒に書かれている内容は、一つ一つについてはある意味で正しい、もしくはウソはついていないことが多い。しかし、根拠として取り上げている例が極めて極端で、結論が間違っている。まさにDHMOの同類だ。個々の説明は概ね正しくとも、それらを因果関係で結ぶために必要な条件を満たしているかといえば、その部分はほぼ完全に抜け落ちているといっていい。

そしてたまに、前のほうで言っていたことと異なることを言い始める。先生方の頭の中でも経皮毒がどんなものなのか、整理しきれていないようにも見える。


著者の先生方の何よりも良くない点は、妥当といえる条件の下での実験結果が全く書かれていないことだ。たとえばラットを毎日市販のシャンプーで洗って、皮下組織にどれだけの有害化学物質が溜まっているか調べる程度の動物実験ならばできたのではないだろうか? そうした他者にも追試可能な観測事実をもってこうした仮説を述べれば、三者が追試して証拠を固めることもできる。そうして事実を積み重ねていけば、「経皮毒」も科学的真実となるだろうに、なぜそうしないのか?


答えは簡単、できないからだ。シャンプーや洗剤に含まれる程度の合成界面活性剤では、先生方が述べたような「角質層の無力化」は起こらない。経皮毒説はすべてそれが起こることを前提に組み立てられているものだから、結果として事実と異なる妄想に過ぎなくなるのだ。


いや、いきなり地球環境の話になるところはSFみたいで面白かったんだけど(笑)