だいぶ昔からこのネタはあるが…

まぁ、業界の人は結構至る所でこの風刺画を観たことがあるかもしれない。


面白いのは、この風刺画についての解釈が、解釈を書く人によって色々と違うところだ。そこに俺の解釈を加えてみるのも面白そうなので、書いてみようw

単にバックグラウンドストーリーを書くだけではつまらないので、もしこうだったら回避できたかもしれないね、ってなコメントも書いてみる。

顧客「なんか遊ぶものがほしいな、そう、たとえばブランコとか。木にぶら下がった手作りブランコなんてなかなかノスタルジックでいいじゃない? でもそれだけじゃつまらないから、なんか工夫がほしいな…よくわからないけど、たとえば三人ぐらい一緒に乗れるとかさぁ…」(←注:乗れません)

お客さん(発注者)には欲しいものがある。でも、欲しいものを具体的に形にするための知識や技術、あるいは人や時間が無いからお金で仕事を頼んでいる。人や時間が無いだけなら欲しいものをちゃんと説明できたのかもしれない。でも、知識や技術が無いことが動機になっているお客さんは、自分の発言の矛盾に気づかず、たまに思いつきでものを言う。

プロジェクトリーダ「ブランコ…って何だ? 座るための横木の両端をロープでぶら下げたもの…構造はわかった。どう遊ぶのかはよく知らんけど。木にぶら下がったブランコ…こんな感じかな? ブランコなんて乗ったこと無いからよくわからないけど、多分こうだろう」(←注:どうやって漕ぐんだ?)

プロジェクトリーダーにブランコに乗った経験があれば、その理解によるブランコが、そもそもブランコとして機能しないことは自明だったはず。自分が相手にするお客さんと共通する体験などを通して、理解を共有できる知識的土壌を生み出す豊富な経験が彼にあれば、こんな理解にはならなかったはずだ。

あるいは、彼はこの自分にとって未知の代物「ブランコ」について、それが何なのか知らないのであればしっかり調べるべきだったのだ。それをやらなかったのは、明らかなプロジェクトリーダーの手落ちである。

アナリスト「ちょっとちょっとプロジェクトリーダーさん、ブランコは前後に揺れなきゃならないからそれじゃ駄目ですよ。なんとか揺れるようにならないと。それじゃ幹が邪魔で遊べないじゃないですか!枝にくくり付けるんじゃないんですか? …え? 今からそれやってると完全にやり直し?…じゃあ、幹に部分的な隙間を空けて横木が幹にぶつからずに揺れるようにしましょう。それで何とかなりますよ」(←注:上に乗って漕ぐ人は幹にぶつかるんだが…)

このアナリストは、「前後に揺れる」というブランコの必要条件に気づいてはいるが、それを「人が漕ぐ」ということを完全に失念している。あらゆる文明の産物は、人のために存在するということを彼が忘れていなければ、こんな場当たり的な解決にはならない。

彼はここでプロジェクトリーダの面子を潰してでも、設計をやり直させるべきだった。

プログラマ「んー…横木の両端にロープを結んで、それを木に括り付ける…できました。リーダーの説明どおりですよ? ブランコの機能? いや、良く知りませんが…とりあえず、横木とロープのコンポーネントは作ったので、必要ならそれ使って上流で実装してくださいな」(←注:吊るしてすらいない)

おそらくプロジェクトリーダは、自分の理解をさらに端折ってこのプログラマに説明したのだろう。さらにリーダーと同じくプログラマにとってブランコという概念自体が初耳だったため、「括り付ける」という言葉が「吊るす」という概念に結びつかなかった。彼にもプロジェクトリーダ同様、豊富な知識と経験が必要だ。

営業「大丈夫です!ブランコを吊るす木の選択も、ブランコの素材の選択や設計も、スペシャリストがやってますから!すばらしく乗り心地の良い豪華なブランコをご提供できますよ!」(←注:顧客は豪華さとか求めてないんだが…)

確かに何かの「スペシャリスト」であることは間違いないのだろうが、ブランコを作るスペシャリストではない、という事実に言及していない。もちろんお客に不安を抱かせないためだ。酷い場合にはほんとに単なる営業トークで、スペシャリストというにはあまりにスキルが不足している場合もありうる。

とりあえず、この営業はブランコが何であるか理解している。少なくとも、プロジェクトリーダーやプログラマのように、ブランコの概念について初耳ではなく、「乗ることができるブランコ」を提示している。挙句に付加価値をつけて高く売りつけようとしているわけだ。
営業としては立派だ。しかし、ここまで見てきてわかるように、彼の営業トークは開発陣によって大きく裏切られることになる。彼は自分の同僚の開発者達がどの程度の理解力を持っているのかを把握し、お客さんに約束した以上はブランコの概念を開発者たちが理解できるまで説明してやるべきだった。

プロジェクトの書類「緑に満ちた小高い丘の上にノスタルジックな手作りブランコ…」

書類にはもっともらしいことが書いてある。しかし、営業とアナリスト以外で「ブランコ」がなんだか知っているのはお客さんだけだった。

理解に繋がる知識的土壌が無い以上、開発者たちが書類の上で理解できたのは「緑に満ちた小高い丘の上」だけで、ブランコが何であるかは理解されておらず、説明もされていない。

あるのはよくわからないブランコとやらのおぼろげな影だけ。ちゃんとブランコの定義が記述されているか、ブランコについて理解できる知識的土壌がスタッフにあれば、プロジェクトリーダもプログラマもこんなヘマをせずに済んだかもしれない。

お客(出来上がったものを見て)「なんだよこりゃ…乗れやしないじゃないか。とりあえず紐を片方解けばぶら下がって遊ぶぐらいはできるけど…」

自分でそれを作ることができない理由がある以上、お客さんは出来上がったもので何とかするしかなくなる。この無知で経験不足のトンチキな開発者達が作った奇怪な代物でお客が何とか遊ぶには、断片的な機能を限定的に使って遊びかたを考えるしかない。

営業「今回のご請求ですが、およそこのぐらいに…」
お客「何この額!? こんな遊べないブランコでなんでこんなに!?」
営業「そう申されましても、私どもも仕事ですので…今回のブランコプロジェクトにはこれこれこれだけの人月と経費が…一応お客様より伺いました要件どおりのものを納品させていただいておりますので、弊社の落ち度を問われましても…」

お客の要件を満たさないものを押し付けておいて、請求だけは多額。これは、そのプロジェクトに纏わる様々なレイヤにおいて軋轢となり響いてくる。せめて、お客が納得できるレベルのものを納得できる価格で提供しているならまだマシなのだが。

お客「なんだよこれ!? まともに遊べないじゃないか! 上に乗ったら幹にぶつかって漕げないし…」
サポート「申し訳ございませんお客様。その件につきましての対処法ですが、ブランコの木を切り倒せば幹にぶつからずに済みますので、お手数ですがそれをお試しいただいてから…」
お客「それじゃ遊べないよ。何とかならない?」
サポート「申し訳ございませんがそこまでいきますとサポートの対象外でして…ライセンス条項によりますと、製品に不服がおありの場合は使用を中止していただくことになりますが…」

ブランコを作ってもらったはずのお客さんは、ブランコとして遊べない代物を押し付けられた挙句、それに見合わない請求を受け、遊べないことについて当然の文句を付けたら事実上使うな、と言っているに等しい「解決法」を押し付けられる。もう踏んだり蹴ったりである。

これは常識的に考えて、純粋にまともなブランコを作れなかった業者が悪い。

お客「せめてタイヤがつるしてあったりして、つかまって遊べるだけで良かったのにな…」

お客が言っていることが最初と違うが、本質的に重要なところは最初と変わっていない。お客にとってもっとも重要かつ絶対に譲れなかった部分は、まずブランコとして正しく機能することだった。横木が渡されたものでなくてタイヤがぶら下がっているだけでも、ブランコとして機能したはずなのである。
ところが無知で経験不足なトンチキ業者のせいで、このお客さんが手に入れたものはブランコの出来損ないを切り倒した後の切り株だけ。このみじめな切り株を手に入れるために、お客さんはジェットコースターを作れるほどの大金をはたく羽目になったわけだ。


…なんか、既視感。
いや、特定のケースのことでなく、似たようなことが何度もね…orz