迷宮と竜、そして…

RPGに分類されるあらゆるゲームのルーツを紐解くと、ひとつのゲームに行き着く。

"Dungeons&Dragons" の名を持つ、非電源ゲームとして生まれた最初のRPG。実際どうかはともかく、少なくとも自分はそう認識している。

同種のゲームに関する情報に自分が初めて触れたのは中学生になりたての頃だった。月刊ニュータイプ誌上に「RPG大作戦」というコーナーがあり、当時なんとなくコンピューターRPGのタイトルを数本知っていただけの自分の目には「どうやって遊ぶのか良くわからないけど、メタルフィギュアとかダイスとか雰囲気が玄人っぽくてすげー面白そうな遊び」に映った。

実際にその種のゲームを遊んだのは、東京創元社から刊行された「ファイティング・ファンタジー」。当時自分とその兄弟は同社や社会思想社から刊行されていたゲームブックの類いに夢中で、「ゲームブックではなくRPGが文庫本で遊べる」と知るや入手し、三人兄弟持ち回りでGMとプレイヤーとなって遊び、RPGという遊びの楽しさを知った。

ひとたび知ると同種の他のシステムも遊んでみたくなるもので、少ない小遣いから何とか捻出しながら色々と手を出した。その熱は中学生から高校生になり、卒業した後までしばらく続いた。部活では本来の活動そっちのけで部員たちで遊んだ。自分達で買っただけでも社会思想社のT&T、富士見書房ソード・ワールド、そして、冒頭に挙げた株式会社新和D&D。友人や他の部員が買ったものではRuneQuestやCall of Cthulhu、ファンタズム・アドベンチャー、等々…

就職して地元を離れても、時折現地でできた友人とRPGを遊んだ。

まあ、約30年以上前、自分の遊びのひとつだったわけで、自分は当時のファンタジーブームの体験者の一人であったともいえる。コンプティークのリプレイ連載からロードス島戦記が生まれ、tactics誌からRPGマガジンが生まれ、浅香唯のコスプレを表紙とした富士見書房の月刊ドラゴンマガジン創刊を見届け、Logout誌を読み漁り…といった時代を10代中盤から後半、20代初頭にかけリアルタイムで体感してきた世代である。富士見ファンタジア文庫最初の一冊である田中芳樹の「灼熱の竜騎兵(レッドホット・ドラグーン)」がドラゴンマガジン誌上に連載されていた時期も知っている。

…とはいえ、時と共に立場も住む場所も変わり、友人たちと集まることも難しくなり、いつしか自分はRPGを遊ばなくなっていった。

自分のD&Dは1987年前後に赤箱を買った新和版、現代の分類で言えばClassic 4thにあたるバージョンで30余年止まっていた。黒田幸弘先生が富士見書房の「D&Dがよくわかる本」で解説したバージョンである。
この版も続けて青、緑、黒と買い進め、兄が米国にホームステイする折にはお土産として金箱(英語版)を買ってきてくれたりしたが、現在に至るまでの間にそのClassicの系譜は断絶し、当時AD&Dとされていた系譜が3rd以降メインストリームのD&Dとして台頭、大本のTSR社がM:tGで知られるWoCに買われたり、産みの親のゲイリー・ガイギャックス氏が他界したり…といった情報は遊ばなくなってからも聞き及んではいた。

そのAD&Dの末裔となったD&Dの最新版5th、日本語版が版元のWoCから直接出ているというのと、現代のデジタルテクノロジーがもたらした環境の変化が、非電源RPGを「公民館を借りなくても、誰かの家に集まらなくても遊べるゲーム」にしてくれたのと。

かつての遊び場であったD&Dが今どうなっているのか見てみるには良い頃合いかもしれない、と思うに至ったのは他にも何か要因はあるのだろうが、それが何かはちょっとわからない。しかし最新版であるD&D 5thを手に取る気にさせた巡り合わせが何であれ感謝せねばなるまい。

さしあたり買ったのはこの3冊。

中学生の小遣いには荷が重い4800円の赤箱を買うため地元で最も品揃えの良いホビーショップに行って入荷待ち…みたいな感じだったものが、今ではWeb通販一発で隔世の感がある。

プレイヤーズ・ハンドブックを手に取り読み始める。前書き、そしてD&Dがどんなゲームかを説明する下りは「えぇ、存じ上げております」という気持ちと同時に「そうそう、それだよ」と。中学生の時に感じた高揚を50に至った身で思い出す。

赤箱では薄い中綴じ2冊だったプレイヤーズ・ハンドブックとダンジョンマスターズ・ガイドが、5thでは立派な厚さのハードカバー2冊。ルールのボリュームは比較にならない。それでもこの高揚は間違いなくD&Dだ。

今の俺はかつてのようにオリジナルワールドをデザインできるだろうか? いや当時より30年余計に生きた分の蓄積がデザインする世界に昔より深みを与えてくれるかもしれない。どこでやろう? Discordでやればいいんじゃないか? それなら画面共有とかむっちゃ使えるな…みたいな感じで、様々な想いが去来する。

脳裏にCAPCOMD&Dのコイン投入ボイスが響く。"Welcome to the DnD World!" いや、むしろ帰ってきたのだと思いたい。かつての遊び場を新天地として。