いろんなところを読んで、なんかムズがゆいから書く。
個人的にかなり腹立たしいので、文体はかなり攻撃的になっている。ただし、政治外交的な腹立たしさではない。無知なくせにでしゃばりな、頭の可哀想な大人が各所に見られることが腹立たしい。無知なら無知なりに調べてからものを言えばいいものを。
政治外交的な云々はここではあまり述べたくないし、そんな面倒なものにタッチしたくはない。俺を左翼と見なそうが右翼と見なそうが、他人の思惑などどうでもいいし、どちらに組したいとも思わない。そんなつまらんものにつき合わされたくはない。
俺が述べるのは、「人の力で動かせない法」すなわち物理法則。人工衛星に欠くべからざる軌道力学の観点からのツッコミである。物理法則は政治信条を問わず、万人が無視できないものであるはずだからだ。
いや、なんかさぁ…
衛星だとして、東に打ち上げて日本上空を通過する必要があるのか。
真上に打ち上げればいいのではないか
みたいなこと平気で言ってる奴は何なの? 一回物理を勉強しなおしてこい。
高校生程度の学力があれば(いや、中学でも)十分理解できる。理解できなきゃ中学生以下の頭しか持ってないってことだ。
まさか「宇宙に出たら無重力。衛星はふわふわ浮いている」とかファンタジーなこと考えてたりはしないよな? リアル中学生なら「いい機会だから勉強してほしい」と希望を込めて言うが、義務教育を終えた筈のいい大人がその程度の頭なら「恥ずかしい」としか言いようがない。
打ち上げられるのが人工衛星だと仮定した場合、そのペイロード(「積荷」のこと。人工衛星ならば衛星本体、ミサイルなら弾頭)は
- 衛星は、中心天体の万有引力と、軌道公転による遠心力が均衡している
- 充分な遠心力を得るためには、充分な公転速度が必要となる
- ゆえに、衛星はその軌道高度に適した公転速度(=軌道速度)を獲得して、初めて衛星たりうる
これをよく覚えておこう。ちなみに衛星の場合は原則地上に落ちてこないので、弾道ミサイルとしては機能しない。弾道ミサイルは地上を攻撃するものだから、落ちてこないことには話にならない。
で、もうひとつ。ケプラーの第三法則も挙げておく。
ケプラーの法則 - Wikipedia
第3法則 : 惑星の公転周期の2乗は、軌道の長半径の3乗に比例する。
これについてはリアル中学生以下の前途に希望ある若人と、中学生以下の頭しか持ち合わせない可哀想な頭の大人達のために順を追って説明してやる。リアル中学生達は自身を卑下する必要はないが、可哀想な頭の大人たちは海より深く反省して勉強するがいい。
- 衛星は、中心天体の質点(質量の中心)を焦点とした楕円軌道を描く。「楕円の焦点」については中学生ぐらいで習うと思うが、Wikipediaの「作図法」に出てくる二つの点のこと。
- 「軌道長半径」とは、その楕円のもっとも長い部分の半径のこと。
- 「公転周期」は、その楕円軌道を衛星が一周するのにかかる時間。
- 軌道楕円の周の長さ(距離)を「公転周期(時間)」で割れば、「軌道速度」が出る(距離/時間 = 速度。小学生の算数)。
- ケプラーの第3法則からわかるのは、衛星が地球に近いほど「軌道速度」が速くなるということ。
以下、軌道として「離心率 e = 0 の楕円」(= 円)を用いて説明する。円は楕円の一種なので、軌道半径と軌道速度、公転周期の関係をシンプルかつ楕円のときと矛盾なく説明できる。
軌道長半径を r(radius = 半径), 公転周期を P(Period = 周期), 軌道速度を v(velocity = 速度)で単純にあらわすなら、
のようになる。言うまでも無く二番目の式の分子は円周の式である。いくら頭が可哀想な大人でも、これぐらいは覚えているだろう。
まぁ、その頭が可哀想な大人たちは数式が多くなりすぎると読むのをやめてしまうような奴らだろうから、前途あるリアル中学生諸氏には申し訳ないがこの程度にしておく。
で、ここまでいいだろうか?
ここでいう「速度」は、地表面に対する相対速度ではなく、「地心点」(=地球の中心点)に対してのものだから、間違えないようにしよう。
で、最初の問題に戻る。
衛星を東に打ち上げる必要があるのか?
地球は自転していて、地表面にあるものは地心点に対して最初から相対速度を持っている。自転による大地の進行方向である東に向けて打ち上げれば、衛星が必要な速度のうち、地表面が持っている速度を除いた分をロケットで生み出せばいいということになり、その分エネルギー的な効率が少しばかりよくなる。
なので、この無知さから出た、疑問の形を借りた詰問に対する答えは、
- 地球の自転方向である東に向けて打ち上げる飛行計画は、力学的観点から合理的である。なぜなら、地球の自転速度による運動エネルギーを初速として与えることが出来るから(ロケットで生み出す v の値を少しばかり小さくできる)。
- 過去に衛星打ち上げ実績の無い北朝鮮の場合、仮に彼らの言のとおり「衛星の実験」だとすれば最初から無理はしないと思われる。東向きに打ち上げるのはごく自然な選択。
- 静止軌道より低軌道の衛星ならば軌道速度の都合上、地表から見ても東向きに公転する軌道を取ることになる。少なくとも現状、北朝鮮に静止軌道高度以遠の衛星を作る技術があるとは考えにくい以上、衛星だとすれば必ず東側に飛ぶ飛翔体となる。
- 先にも述べたとおり、「最初の衛星実験」ならば技術的な無理はしないと考えられる。その国家にとって初期の宇宙計画で、逆行軌道(西向きに公転する軌道)を取る衛星を作るような無茶をするとは考えにくい。
というものにしかならんわけ。
知らんと思われると腹立たしいので、例外的な実例を挙げておくが、イスラエルは外交的理由により、ロケットを西向きに打ち上げる国だ。が、東に打ち上げることができればもっと技術的制約は少ないだろう。
また、イスラエルの場合は国土の西側に地中海が広がっていて、上手くすれば他国領土上空を避けることができるだろうが、北朝鮮の場合は国土の東西を他国に挟まれていて、どちらに打ち上げても似たような問題が起こる。そうなれば力学的に合理性のある選択をするだろう。
さて、ここまで来ると頭の可哀想な大人たちはこういう誤解をして噛み付いてきそうだな。
「北朝鮮が打ち上げるのが衛星だと決め付けるのか! この左翼め!」
はい、間違い。
もちろんミサイルかもしれないし、むしろこれまでの情報からするとミサイルである公算が高い。
しかし、どちらにしても「東に打ち上げる理由がある」ということを説明してきたつもりだ。
…つまり、「東に向けて打ち上げる(撃つ)」こと自体はミサイルであれ衛星であれ北朝鮮にとって「当たり前」であり、そもそも「論点として的外れ」だということを説明してきたわけだが。
ついでに「問題とすべき点」について。
ここからは少々ガバメントな話題が混ざることになるが、問題なのは「東に打ち上げること」ではなく、
からじゃないのか? と。
1.はつまり「衛星かミサイルか」という問題。ペイロードやロケットの性能緒元について公開もなしに、
衛星だといったら衛星だ。信じろ!
ちゃんと一段目と二段目は日本海と太平洋に落ちる!
とか言われたところで信じられるほど、北朝鮮は信用されている国家ではない。そもそもロケットが提出された飛行計画通りに飛べる代物なのかという検討は、緒元が公開されないと無理であるし、ペイロードが本当に衛星であると公開すれば、無用な疑いも受けずに済んだだろうに。
2.については、たとえば日本の H-IIA の場合、以下のような飛行計画があらかじめ出される。
打ち上げの離床時刻を 0 秒とし、何秒後に何が起こり、そのときロケットがどこにいるかまでが、ロケットの性能緒元から割り出され克明に計画されている。
この飛行計画に基づき、燃焼を終えた一段目および二段目の残骸がどのあたりに落下するかといった予測が立てられ、近海で操業する漁船に被害が出ないよう、また打ち上げに伴う騒音などによるストレスで家畜が騒いだり出産や産卵に支障をきたしたりなどといった問題を避けるため、漁協や農協との折衝が行われ、その後に打ち上げの日程が決まる。
NORAD(北米防空司令部。毎年サンタを追いかけてることで有名)のような関連する各国の機関にも連絡が行き、衛星が取る予定の軌道要素などを通知する。
…とまぁこんなふうに、自国の都合だけでなく他国や関連する団体などとのコンセンサスを得てようやく打ち上げが可能になる。これは国際的な信頼がそれなりに無いと出来ないことだ。北朝鮮という国家にはそれが致命的に欠けている。
そしてこの飛行計画は、使用されるロケットの性能諸元によって実現可能であることが裏付けられていなければならない。こうした過程のどこかに問題や疑念があったから、国連がストップをかけたと考えるべきだろう。
3.は、以前テポドンの打ち上げ時に報じられた推進剤は「ヒドラジン系」だったという話。おそらく非対称ジメチルヒドラジン + 四酸化二窒素という腐食性の高い猛毒コンボ。こうした推進剤は、先進各国の宇宙機では大気汚染を避けるため、基本的に大気圏外でしか用いられない。そんなものを、全人類が共有する大気の満ちる地上からの打ち上げで使われてはたまらんわけで。
…とまぁ、問題点はこうしたところにあるのであって、北朝鮮のような条件の国が「東側に打ち上げる云々」のレベルを問題にするのは、「頭の可哀想な人」しかいない、ということだけは知っておいて欲しい。仮に衛星だとすれば東に打ち上げるのは良いとして、筋をちゃんと通せ、と。筋が通らんからミサイルだった場合という最悪のシナリオを想定せざるを得なくなる。
さらについでだが、MD(Missile Defence)で使用される PAC-3 は、「落ちてくる」弾道ミサイルを破壊するものであって、「上がっていく」ロケットに追いついて打ち落とすことは出来ない。地球の重力加速に逆らい上昇する打ち上げロケットに、PAC-3程度のミサイルは、増速度のレベルでそもそも追いつけないからだ。また、人工衛星のペイロードは軌道に乗るので「落ちてこない」。
つまり、PAC-3 を使う「ことができる」事態は、打ち上げられる飛翔体が弾道ミサイルであり、上昇を終えて目標に向けて落ちはじめた場合ということになる。あとはせいぜい一段目/二段目の残骸が「有人の領域に落ちそうな場合」ぐらいか。
つまりは、衛星であれば「使う必要が無い」のではなく「そもそもPAC-3が使えない」ので、
…のようなことを言うと、「頭の可哀想な大人」呼ばわりは避けられないということは覚えておこう。政治的信条云々ではなく、単に「前提となる情報を調べる能力が無い」という点において。
今度は
武器、兵装の使用を容認するのか! 憲法第9条を忘れるな、この右翼め!
…という声が聞こえてきそうだな。
俺としては使わんで済むことを祈ってるよ。
武力行使というのは外交手段の一つではあるが、最低最悪の部類の外交手段だからな。
今回の事態を無事死なずにやり過ごせたらその辺は考えることにしよう。ただ、無抵抗で殺されるのだけは御免こうむる。大人しく殺されてやる理由は無いからな。