「スペース カウボーイ」(2000)

かなりトンデモな映画。クリント・イーストウッドが宇宙開発に関する知識においてド素人であることがよくわかる。

そもそもロシアの衛星を直すためにアメリカがシャトル飛ばすという話。かけらもリアリティが無いぞ(笑) 逆ならまだわかるんだが。


実際のところ、ロシアのロケットは、アメリカのシャトルよりよっぽど信頼性に優れており、そしてまた頻繁に打ち上げられている。コロンビアが落ちて以来約二年以上の間シャトルは飛べなかったが、その間ISSへの交替人員や補給物資を打ち上げていたのはロシアのソユーズだ。以前も書いたがこいつは初期のものから数えれば約40年にわたり用いられ、およそ1700回の打ち上げ実績と98%の実績安定度を誇る。この数字を達成したロケットは、世界中どこを探してもロシア以外にはない。つまり、ロシアこそが世界で最も優秀なロケットを管理しているのだ。


その世界最高の打ち上げロケットを持つロシアがたった一つしか通信衛星を持っていないなどということは絶対に有り得ないし、仮にそれを直すために有人飛行が必要だとしたら、ロシアはSTSのような不安定な有人宇宙船しか持たないアメリカに頼んだりなんかしないだろう。まぁ、コロンビアが落ちる前の映画だから、多くのアメリカ人は皆、自分の国のロケット(STS)がロシアのそれに比べて欠陥だらけだなんて思いもしなかったのかもしれないな。

それから、あるコードを与えられた STS ミッションがその内容を変更されるってのはない。別ミッションとして立ち上げるはずだが。実際打ち上げが前後するなんてことはしょっちゅうあるしな。

…ランデヴー時の加速方向が逆。普通は減速して内側の軌道に入り、軌道長半径を落して公転周期を短くして先行する対象に追い付くわけだから、会合したら軌道要素を合わせるために加速するはず。

宇宙で音がする演出についてはもういいや。何も言わない。

問題の衛星を宇宙の彼方に放り出すには、その高度における円軌道速度の√2倍以上の軌道速度を与えてやれば放物軌道/双曲軌道に載って戻って来なくなるわけだから、元もと静止衛星だったのであれば高度があまり変わっていないと仮定して 35786[km]、軌道長半径にして42164.88[km]。軌道速度は既に3074.74[m/s]あるわけだから、1273.6[m/s]ばかり増速してやれば二度と地球軌道に戻って来ることはない。


ん? 静止衛星?…ぉぃ、STSの打ち上げ能力はせいぜいLEO*1までであって、静止軌道までいく能力はないぞ(笑) そもそも静止軌道バン・アレン帯の外側になるわけだがら、NASAがそんなところでEVAなんかやらせるはずがない。癌が見つかった人間をクルーからはずそうとしていた割には、この作品のNASAはそういうところに無頓着だな(w


また、月までいく、つまり外側の軌道を周回する衛星とランデヴーするなら、ホーマン軌道を取るのが最もエネルギー効率が良いわけだから、作中の映像のようにまっすぐ向かうのはエネルギーの無駄。というか無理。有り物で何とかしなければならないなら、それこそ力学的/エネルギー的に考えられうる限り最も効率の良い方法を取らにゃなるまいて。

作中の問題対処法は明らかに間違ってる。まぁ、ハリウッド作品なので作劇優先だから、あまりその辺を考えてもしょうがないんだが。

*1:Low Earth Orbit - 地球低軌道。地上高度がせいぜい400[km]あたりまでであればこう呼ばれる。静止軌道は35786.74[km]の高度にあるので、シャトルで行ける場所ではない。