A.C.クラーク著「渇きの海」/ A.C.Clarke's "A FALL OF MOONDUST"

1969年7月20日、人類は初めて地球以外の天体に足を踏み下ろした(アポロ11号)。
しかしその8年前である1961年に*1地球からの観測で得られた情報と想像力によって書かれた、月を舞台とするSF作品がある。

アーサー・C・クラークによる "A FALL OF MOONDUST"(邦題:「渇きの海」)。

今のところ、手元にあるのは原書を含む四バージョン。

  • 写真左:昭和52年(1977年) 邦訳初版第一刷(早川書房)
  • 写真中下:1995年 邦訳第11刷(早川書房)
  • 写真右:2005年 邦訳新装版初版(早川書房)
  • 写真中上: 1961年 原書初版 (LONDON VICTOR GOLLANCZ LTD刊)

写真中上の原書だが、発表当時である1961年に世界で最初に出版された「渇きの海」のなかの一冊で、私のSF本コレクションの中で最も貴重かつ大切な逸品。上記写真撮影時も、カバーにかけてあるトレーシングペーパーを外す際に痛めてしまわないか、非常に緊張したものだ。


邦訳の訳者は深町眞理子先生(初版表紙では、表記が「深町真理子」になっている)。


1977年の邦訳初版と1995年の邦訳11刷の間では、訳文に大きな差は見られない。まぁ、第○版とついていないのは「初版 第11刷」の意味であるから当然といえば当然だ。


しかし、2005年の邦訳新装版初版は、1961年版(つまり私の持っている原書)ではなく、1987年の改訂版にもとづく訳書ということで、「一九八七年版への序文」と題した巻頭序文が追記されており、本文における句点の打ち方や仮名遣いも若干異なっている。巻末の解説者も堀晃先生によるものから牧眞司先生によるものに。


実際の月面には「渇きの海」にあたる地形は確認されていないが、それでもこの作品はハードSFとして色あせない。仮に月面にそういった地形/地質があったとして、「こうであったならどうなる」というものがリアリティに満ちたクラーク節で語られている。今読んだとしても色褪せてはいない。


現在では上記のうちの新装版が入手可能なので、読んだ事のない方にはそちらをお勧めする。

*1:正確には1960年8月から11月にかけて執筆された。1961年は出版年ということになる。