昨晩の出来事

誰が呼びかけたわけでもないのに、皆自然とあの場所に集まってきた。
まるでそうするのが当然だといわんばかりに。皆考えることは同じだったようだ。
昨日はそんな日だった。


入店して最初に頼んだのは、奴がいつも飲んでいたのと同じ JIM BEAM だった。
普段ウォッカボトルばかり飲んでいる俺が、いつもは飲まない酒を注文したことで察してくれたのか、店のメイドさんは俺のグラスに、奴のグラスにいつもささっていた、奴の愛したキャラである長門有希のマドラーを添えてくれた。そうした気遣いが嬉しかった。「最初に頼んだ」と書いたが、昨日は結局店にいる間、ずっとそればかり飲んでいた。


集まった連中は誰もが最初殆ど言葉を発することがなかった。奴のために集った奴のいない場所で、何を話せばいいのかわからなかった。しかしまぁ、そんな時間をいつまでも続けられる連中じゃない。奴に関して、その場の皆がほぼ共通の体験を数多く持っていて、その話をしながら笑いあった。少なくとも俺にとってそれは、話題に上った時間が確かに存在したのだと、確認する行為だった。


店を切り上げた後、春先に奴を筆頭に花見をした公園に皆で足を向けた。
もちろん今は桜の季節などではないので、桜の樹も傍から見て緑の葉を茂らせる樹木でしかない。
しかし、わずか4ヶ月たらず前、その樹の咲かせた花を眺めながら、奴はそこに座り俺を含む数名と近場のコンビニで買ってきたビール缶をあおっていた。

そんな場所で、他の連中と話しながら過ごした。
自宅のテーブルをその空き缶が埋め尽くすほど奴が好きだったキリンチューハイ氷結を近場のコンビニで買って皆で飲みながら、店での談笑の続きをした。


その集まりも、終電の時刻とともに終わった。
俺を含めた、まだ生きている連中には明日の生活があるのでしょうがない。


以上が、昨日の出来事になる。


奴は独り自宅で逝ったそうだ。
おそらく明日を迎えるつもりで眠りにつき、そのまま目覚めることなく逝ったのだろう。
奴だったものが発見されたとき既に死後10日は経過していたらしく、奴が逝った正確な日付はわからずじまい。


以前自宅に遊びに行ったとき、奴は上の階の住人が孤独死した挙句、階下の自分まで色々あって大変だ、というような話をしていた。名も顔も知らぬ階上の住人と同じ死に方をするなどとは思ってもいなかった。