情報の出所となった一次資料は、以下のもの。
非親告罪化案は、このPDF文書の15ページ目から記載されているが、文書の文脈上これは12ページから開始される「II 模倣品・海賊版対策」の一環として打ち出されているわけだな。
ここの「具体的方策」にはこうある。
(2)具体的方策
「一定の場合」として、例えば、海賊行為の典型的パターンである営利目的又は商業的規模の著作権等侵害行為が考えられる。
営利目的の侵害行為は、その様態から侵害の認定が比較的容易であるとともに、他人に損害を与えてまで金銭を獲得するという動機は悪質である。また、営利目的ではなくても、例えば愉快犯が商業的規模で侵害を行った場合には、権利者の収益機会を奪い、文化的創造活動のインセンティブを削ぐなど、経済的・社会的な悪影響が大きい。
…まぁ、素直に読めばこの方針が打ち出された理由もわかるし、「一定の場合」すなわち非親告罪として扱われるケースを限定的なものにする、という意図も汲める。ただし、
- 海賊行為
- 営利目的
- 商業的規模
とされる条件については、定義を慎重に決めないとちょっと困ったことになるなぁ。海賊版は締め出せたけど、同人誌も出せなくなりました、だと副作用が大きすぎる。
市井のサークルがちょっと二次著作同人誌を出す程度なら、常識的な判断で"商業的規模"と看做されることはまずあるまいが、たとえばプロとしても活動している作家さんが個人で出す二次著作同人誌に人気が集中した場合にまで"商業的規模"と看做されるのも考え物だ。
また私見だが、コンテンツとしての同一性を100%保持したままの複製は間違いなく海賊版だとしても、コンテンツ内容の100%を内包していることがすなわち海賊版という基準にしてしまうのは違和感がある。
MADと呼ばれる類の映像/音声を編集したものがあるわけだが、youtube などを見ていると楽曲をフルコーラス使用しているMAD映像などがあり、それらにおいては音楽コンテンツが楽曲単位で100%使用されている。しかし二次著作としての主体は映像のほうにあるので、100%使用していることをもって「音楽コンテンツの海賊版」とされてしまうのも妙だな、と感じるわけだ。
映像も含めて考えた場合、これらのものは厳密に法を適用するなら同一性保持権と著作者人格権の侵害にあたる(勿論無許諾の場合においてはだが、通常このジャンルは無許諾と思われる)わけだが、映像作品としては「同一性を保持していない」がゆえに「海賊版」ではないと思うし、映像作品という作品形態上から音楽コンテンツとは視聴形態が異なり、音楽はある意味で「付属品」的な位置づけになっているので、音楽コンテンツの「海賊版」とも違うと感じる。音声のみのMAD(古くは「マッドテープ」と呼ばれた)であれば、音楽自体の同一性が保持されていないので、著作権侵害ではあるが「海賊版」となるのはおかしい。
また、内容によっては素材となったオリジナルコンテンツに興味を抱かせ周知する契機となり、著作者側にとっては「良い宣伝」となることがある*1。
こうした側面があるものについては、著作者側の判断で黙認するという親告罪的な運用が出来たほうが都合が良いので、こうしたものが「海賊行為」と解釈できないような基準がほしいところだ。
んで、こちらのblog記事
では、著作権法以外の枠組みで海賊版対策を行うことを提案している。
…いや、「多くのブログの方々が書いてるとおり」という但し書きがあるので、「他に倣って」ということだから、「提案」とはちょっと違うか。
まぁ、「じゃあ一体他のどこで対策するんだ」という新たな問題は出てくるが、私も現行の著作権法の枠組みが基本的には気に入っているので、それが可能であるならば「別枠での海賊版対策」を支持したい。
そんなわけで、
といったところか。
…まったくの余談だが、「知的創造サイクルに関する今後の課題」と銘打つのであるから、フェアユースや二次著作、パロディなどについても検討してほしいなぁ。そういうところから次の芽が出てくるわけだし。
*1:たとえば私も先日MADで知って気に入った楽曲を二曲ほど購入したばかりだし、その二曲ともがMADで知らなければおそらく接点がなかったものなわけだな。このケースにおいてMADはオリジナルコンテンツ著作者に利益をもたらす「広告費無料の作品宣伝」の役割を果たしている。