作曲-音源作成までの手順を見直してみる

もう1年以上新曲を書いていないわけだが、そんな状況下で作曲プロセスの問題点を見直すため、これまでやってきた作曲方法をまとめてみることにした。

結論から先に言うと

かなりいい加減

であるw

(1)曲調をなんとなくイメージする

どんな雰囲気の曲を作りたいのか、方向性を漠然と思い浮かべてみる感じ。

例) 「スローなやつ」「ドラムばしばし叩くBPM速めのパンク」

ここで詳細かつ具体的なイメージがあってはダメで、あくまで漠然と決める。
理由は、具体的な曲名でイメージしてしまうと次のような危険があるから。

  • 具体例が存在することで、あまりにも似すぎてしまって自分でもパクリに思えてくる
  • あるいは技術が及ばず具体例のようにならず、嫌になってやめてしまう

(2)コード進行を考える

自分はメロディとコードを同時にひねり出すほどの能力を持たないし、メロディは曲全体のディティールから言えば「カスタムな細部」だと思っている。いきなりカスタムな細部から作り始めたものは絵でも彫刻でもプログラムでもバランスを欠いたものになるという経験則から「全体像からバランスを考えつつ設計する」。曲の場合それは「コード進行」だと考えている。


で、ここでいきなり DAW を開いたりしない。コード進行はギターと書くものを用意して決める。理由は、

弾ける楽器があるのに、わざわざDAWで打ち込んで確認するのは面倒だから。

リアルタイムで弾けるコード楽器があるなら、普通に弾いて印象を確認したほうが早い。酔狂にも俺の作曲プロセスを真似してみようなどと考えたあなたが楽器を弾けない場合でも、まあDominoあたりでポチポチと打ち込むことで代用はできるので、わざわざ楽器を弾けるようになる必要はないと思う。「書くもの」は、紙と鉛筆である場合もあれば、PCのテキストエディタである場合もある。


で、気に入らない箇所は随時修正しながら概ねこんなふうに書いていく。

|D|%|A|%|
|Bm|Bm Bm7|G|%|
   :

コードを小節線で区切ってコード譜の形で書く。なんとなく掲示板等にコード譜を書くときの流儀に慣れてしまったので、その書式をそのまま使っている。真似する場合もこの書式に拘る必要は全くないので、好きな書式で書けば良いと思う。

コード進行は、概ね定型として以下のように部分単位で考え、連結する。

【部位】

  1. イントロ
  2. Aパート(およびA'パート)
  3. Bパート
  4. サビ
  5. 1to2コーラス間
  6. Cメロ
  7. ギターソロ
  8. アウトロ

【連結順】
(1)-
(2)-(3)-(4)-
(5)-
(2)-(3)-(4)-
[ (6)-(7) | (7)-(6) ]-
(4)-
(8)

例外的なケースはあるが、その場合も上記の基本形から大きく外れることはない。

「型破り」は「型」を踏まえてこそできる

というのを聞いたことがあるけど、そんな感じ。



なお、この時点ではメロディはおろか歌詞さえもまだ決めていないw


(3)オケ作りその1: リズムトラック作成

実は、メロディも歌詞も決めないうちにいきなりオケを作り始めるのであったw
理由は

オケを聴いてノってこないとメロディや歌詞を考える気になれない

という大変いい加減なもの。

でもまあ、メロディや歌詞が決まって無くてもコード進行は決まっているのだから、伴奏の基本的な部分を作れるだけの材料はもうあるわけで、「常にその時点で可能な最も完成形に近いもの」を聴きながら作業する、というのはモチベーションを保つために有効だったりする。それがないと俺のような奴は「これほんとにカッコ良くなるんかな…」という疑念が拭い去れない。オケがカッコ良くてメロディがコードから外れてなければ、それはカッコ良く聴こえるのであるw

ともかく、ようやくDAWの出番である。

自分の場合一番最初にリズムトラックを打ち込むことになる。曲のノリを決定づけるのはやっぱりグルーヴで、リズムトラック無しにはそれがイメージできないし、生ギターやベースを使うことが多いため「先にドラムを打ち込んで、それに合わせて弾く」という流れが常となっていたりする。必然的にリズムトラックが一番最初になる。


リズムトラックに使うパターンは毎回作り直すのが面倒なので、作ったもののうち比較的気に入ったパターンを別プロジェクトにまとめてライブラリ化しておき、リズムトラックにそのライブラリからコピペして作る。フィルインなどで気に入ったものが無ければその場で作り、ライブラリに追加して次回以降再利用できるようにする。


この辺はプログラマ出身の俺らしいやり方だと自分でも思ったりする*1。また、ループシーケンサ主体で作る場合等はまさにそういう作り方が普通であるわけで、別に反則というわけでもない。ただ、毎回同じライブラリを使ってると飽きてくるので、気分次第で以前のライブラリをご破算にして作り直したりする。プログラムで毎回同じフレームワーク使ってると飽きてくるのと同じ。また、4/4拍子以外では使い回しが効かないので、その時は改めて作らざるを得ない。まあそれが面倒で作ったこと無いけど。


持論を言うと、ドラムが必要レベルのカッコ良さに達していない曲は絶対にカッコ良くならない。逆にドラムが聴く者をワクワクさせる曲は破綻していない限り問答無用でカッコ良い。この時点でリズムトラックに合わせてギターやベースを弾いてみてカッコ良くなっていれば、その上にどんなメロディや歌詞が乗ろうと、もう勝ったも同然であるw


(4)オケ作りその2: 仮ベース収録

一番よく作るのが生ギター/生ベースのパンクロックなので、それに準じて解説すると、順番的に次がベースの収録となる。この時点でリズムパートであるドラムとベースが入り、ベースラインは曲のコード進行を踏まえたものになるため、ディティールもだいぶ見えてくる。


ベースは生楽器を使用するため、DAWのパンチイン/アウトを多用しながら仮トラックを収録していく。ここで収録したものは最終的に使われるとは限らないテイクなので、音を外してさえいなければそんなに気合いを入れる必要はない。この時、思いついたベースラインがあれば、メモがわりに仮トラックに録っておくこともできる。生ベースの利点は、ベースラインのトライアンドエラーをリアルタイムで行うことができること。なんせベースを始めた理由が「ベースライン打ち込むのが面倒だから」という人なので。


なぜここで本番テイクを録ってしまわないかといえば、ベースというのはドラム同様にリズム隊と看做されるパートであり、これをよりカッコ良くする余地は最後まで残しておきたいから。それならばこの作業自体すっ飛ばしてギター収録に入れば良さそうと思われるかもしれないが、ギター収録のときにドラムとベースが揃っていないと、ギター弾きとしては「燃えない」のである。つまりギターを弾く時に燃えられるように、仮でもいいからまずドラムとベースは揃えておくのだ。


(5)オケ作りその3: 仮ギター収録

今度はギターだが、これも仮収録である。ギター弾きの端くれとして、ギターはその時点で可能な限り最高にカッコ良く聴こえなければならない楽器だと思っている。また、ロックにおいてベースとギターのカッコ良さは相互補完の関係にある。ベースの本番テイクに満足がいった後、そのベースラインによってギターに不満が出てくることもあるし、その逆もある。だから、納得がいくまで(あるいは作業上のタイムリミットが訪れるまで)両者は仮テイクの扱いとなる。

しかし、忘れてはいけないことがある。まだメロディも歌詞も決まっていないのだw
ベースもギターも収録しなければオケのノリが見えて来ないので、メロディと歌詞を決める作業に入れない。とりあえず両者の仮テイクがあれば「だいたいこんな感じのオケになる」として、その辺を決められる。


この段階での作業は、基本的にコードストロークやブリッジミュート等によるバッキング。リードギターも既にイメージがあるものは仮収録する。その辺の機微はベースと同様。


(6)メロディ決定

ここにきてようやくメロディの作成に入る。
既にこの段階では「完成系イメージに近いオケ」が存在しているので、メロディの決め方は、

  • オケに合うよう適当に鼻歌で歌ってみる
  • 良さげなフレーズになったら都度MIDIトラックで打ち込む

というこれまた大変いい加減なもの。

しかし、この時点でもう完成系イメージのオケは存在しているわけで、それに合わせた最高のノリでメロディを決められる。アレンジでどうなるかわからない漠然としたイメージの中で考えるのとは訳が違う。斜め上のメロディを作ってしまい曲全体が瓦解することも、概ね確定したオケの存在が防いでくれる。


VOCALOID2 の時は、この時の打ち込みをDAWMIDIトラックではなくVOCALOID2 Editor上の「a[a]」だけで打ち込み、ReWire で再生して確認出来たのだけども、VOCALOID3 から ReWire に対応してくれなくなったので、この辺の作業がやりづらくなった。Cubase の人は最近プラグインで素敵なものが出来たそうだけど、俺SONARなんすよYAMAHAさん頼みますよ(何


(7)歌詞決定

実は歌詞は最後の最後に決めているw

曲を作り始める時に「あー、こんな内容で歌いたいね」ぐらいは決めるけども、曲に合わせた字足であるとか、俺の能力ではメロディが決まらないと目星が付けられないのだw

しかし、この時点でもうほぼ完成形イメージのオケとメロディが存在しているので、この作業は小学生の時によくやった「替え歌」を作る要領でできる。ただ一つ違うのは「元の歌詞など存在しない」という一点のみ。それ以外は同じである。替え歌を作ることができれば、メロディに合わせた歌詞も書ける(たぶん)。


(8)ブラッシュアップ

この時点で、ドラム、ベース、ギター、ボーカル…と、3ピースバンドのレベルであれば楽曲を構成する要素が一通り揃っている。次はこのブラッシュアップ作業。

  • ドラムの展開やフィルインで燃えさせる
  • ベースラインで燃えさせる
  • ギターの刻みをもっとカッコ良く燃えさせる
  • バッキングに合わせたリードギターパートおよびギターソロ収録
  • ボーカルにもっと表情を出す
  • ストリングスやブラスなど、何かシンセで乗せた方が良さげなら乗せてみる

…のようなことはここでやる。
仮テイクであったベースやギターも、ここで納得のいく「完成系」に近づけて行く。既に全体像が見えている中での作業なので、よほど変なことをやらない限り瓦解することはない。

(9)MIX/マスタリング

一通りのトラックが出そろったなら、あとはもうMIXとマスタリングで音源にする。
MIXは自分の納得がいくように、マスタリングはコンピ参加とかで一括して他の方にお願いすることになっている場合もあったので、ケースバイケース。

なんというか「VOCALOIDをダシにして楽器弾きたい」というのが主目的だったりするので、自分のMIXはボーカルより楽器が前面に出ているっぽいところはあるかもしれない。というかそれ以前に「うん。俺のギターが聴こえて体裁取れてりゃ無問題」的な。


(10)公開する、あるいは没にする

音源は出来たので、あとはこれを公開するか没にするかを決めるw
動画サイトでの公開だと動画を作る都合上、絵師様との折衝が不可欠になるのだけども、その辺あんまり深く考えたことが無くて絵師様方にはご不便をおかけしていることをお詫びいたします。

総括的なもの

自分が幼稚園児であった折、先生がクレヨン画の塗り方を教えてくれた。

先生「最初に塗りたいところのまわりをふちどりしてから、中を塗るといいよ」

その後の人生で、色々と手を出した中で学んだこと。

  • 小説は、プロットを決めてから書く
  • 絵を描くときはデッサンしてから彩色する
  • 彫刻は全体のバランスを考えながら、荒削り→細部のように作業する
  • 漫画はネーム→下書き→ペン入れ→ベタ→トーンのように作業する
  • プログラムは機能要件まとめ→仕様検討→部品化→単体実装→単体テスト→連結テストのように作業する

これらを分野に縛られないレベルに抽象化すると、何事も「ここまでであれば破綻しないと思われる枠」を最初に決めてバランスを維持しつつ、その中で工夫する、というやり方を徹底することが、失敗の率を下げるノウハウとして定着している。幼稚園の先生が教えてくれたクレヨン画の塗り方は、こうして幅広い分野に通じていた。

そして音楽制作を始めるにあたって、そうした教訓を適用したら、こんな作り方になった、と。


歌詞の字足がはみ出すのを避けるためにメロディを先に、メロディが破綻しないようオケを先に、オケのギターやベースが破綻しないようドラムを先に、ドラムが破綻しないよう楽曲構成をコード譜で先に…という作り方は、「制約となる要件を先に作る」手順を徹底した結果であるとともに、改めて書き起こしてみることで「自分が何を制約事項として捉えているか」が現れていると感じた。


他の方の作曲法で「コードとメロディは同時に出てくる」というのを聞いて驚いたことがあるのだけども、自分が他人にそこそこ自慢出来るレベルに達しているプログラムの世界で考えてみると、取り立ててがっつり設計しなくても「そのプログラムだったら多分この辺の部品揃えときゃできるよね。足りない部品はあったら継ぎ足すとしても大した影響はないよね」というレベルで作業を始めてから、出来上がったものを全体的な設計で見ても特に問題が無かったりするわけで、おそらく「自分の中に定石を築き上げ、瑣末から全体像の予測がつくレベルに達した人」はそうなるのだろう。


生じる制約について経験的な予測がついている人は、何も考えず作っているように見えても感覚的に制約を回避できるようになる。その感覚が育っていないうちは制約を明確に見える物理的な形で示すのが有効であるわけで、現在はその段階にある、ということなんだなと。幸いにしてプログラムの世界ではそのレベルに達しているので、「そういうレベルが存在する」ということや、その感覚は理解できる。


…つまり、そこに達するのが今後の課題、ということか。

*1:プログラムではよく使う処理を「部品化」し、ライブラリ化した上で再利用するのが一般的