曖昧で感覚的な指導は伝わらない。

昨年12月から今年1月にかけての教習の後に普通免許を取得して半年以上が経っている。
普通免許の教習を受けていて不満だったのが、

「見え方」だとか
「車体感覚」だとか
「空間把握能力」だとか

そういう「フワッとした感覚的な言葉」で指導されること。
もっとロジカルに判断の根拠を説明してくれなきゃわからねぇよ!
と幾度も思った。

特に俺が教習中不安を覚えたのは「左タイヤが通る位置」。

右ハンドル車の運転席から見て、足元にある右タイヤが現在の視界で見えている路面上のどこを通るのかは比較的容易に想像できるのだが、運転席から遠い左側のタイヤが通る位置がわからない。「この辺かな?」と思った位置は右すぎて左車輪が縁石に触れたり、逆に左過ぎて「右に寄りすぎ」とか「左空きすぎ」とか言われるわけだ。そんなことを言われても、左タイヤの位置がわからんので判断しようがない。

「左タイヤがどこを通るかはどう判断すればいいんですか?」と質問しても、先の「こういう見え方のとき…」だとか「車体感覚をもっと磨いて…」だとか埒があかない。ひどい奴になると「空間把握能力が必要に…」とか逃げる。俺はそういう曖昧な答えを求めてるんじゃない、もっと明瞭な「車体のどこを目印として、そこからこの辺。なぜそこに見えるかは、こういう理由があるからだ」という事実を根拠とした具体的かつ理論的な回答が欲しかったのだ。

理論の裏付けがあれば、感覚的に車体を理論により理想とされる状態に近づけることもできるが、裏付けとなる理論が曖昧ではそれもできない。「"こういう見え方" かどうかはどこで判断する」とか「その状態か否かを体で判断できるようになるのが車体感覚だ」という説明の順番なら納得できるのだが。

そんなわけで、釈然としないままではあるが何とか免許を取得後、「多くの車種に共通して用いることができる、具体的な判断基準」を見出すため、車体の図面などを漁って観察した末に見出したのが、

運転席からの視界において、車体が路面を隠している部分のうち、車体中央あたりの先に見える路面が、直進時に左タイヤの通る位置

というものだ。

運転経験の長い人ならばそんなことかと思うかもしれないが、これがわからないと車線をはみ出したり道路を踏み外して転落しそうな不安がぬぐい切れず運転できないのだ。慣れた人は身体に染み付きすぎていて、いざ説明を求められるとこれを言語化できないのかもしれない。だから「見え方」とか「車体感覚」みたいな曖昧な説明になるのではないか、というのは勝手な想像だが、具体的な根拠を説明する。

とりあえず説明用に、「車 正面図」で検索したら出てきたホンダ FREED の正面図を用いる。自宅近所を徒歩で出歩く際などに止まっている車を正面から観察したりして、ほかの車種でもだいたい似た感じになる、という確信を得た根拠だ。


  • この正面図に、左タイヤ接地面の一番外側と、運転者の視点がありそうな場所を線分で結ぶ(赤線)。この線は実際には面であるが、車体正面から見ると面を真横から見ることになるのでこうなる。この面はドライバーの視線が左タイヤの通る路面上の点を向いているときの視線の集合となる。
  • 車体の中央線を引く(青線)。これも車体を両断する面を真横から見たものであり、車体のどこであろうと左右方向における中心点はこの面上にある。
  • 二つの線がボンネット上で交差しているのがわかる
  • 仮に運転席からボンネットが見えないならば、フロントグラス下辺中央に見えている路面は左タイヤの通るラインより外側になる
  • ボンネットが見えているならば、左タイヤはボンネット先端の中央より少し外側のラインを通る
  • 多くの市販車は、そう見えるように作られている

つまり、運転席からの視界で見える車体前方中央あたりに見えている路面が左タイヤの通るラインに近く、走る車線の左端を視界に見える車体中央より少し左に捉えている限りはみださないし、左に寄せるならばそれを意識している限り寄せすぎるということもない。狭い場所を通れるかどうかの判断もつく。この根拠に基づき、「この見え方になっているか」という説明は「車線左端を運転席からの視界における車体中央付近に捉えているか」と言い換えることができるようになる。俺はその説明が欲しかったのだ。できれば教習中に。もう終わって免許も持ってるけど。少なくとも俺の行った教習所ではそういう説明ができる指導員はいなかった。

で、先日知己の車を運転する機会があり、この認識が正しいか色々と試す局面があった。中でも「片側1車線の道路で前走車が道路右側の施設に入るため右側に寄せ一時停止している左側を抜けられるか」という局面で、この根拠をもとに下した判断が正しかったことが証明されたので、この記事を書こうと思った。

指導者の曖昧で感覚的な指導に悩んでる方の参考になれば嬉しい。